相続と聞けば以前はついつい資産家というイメージを抱きがちであったが、最近の相談は、「多額になりそうな相続税をどうしよう」という税に関する事前相談や申告の相談だけでなく、「財産の分割(取り分)で揉めそうだ」とか、「親が認知症になってしまいそうなので事前に手を打つべきことは」という誰でもが直面しそうな相談も結構多い。
ここでは相続税の節税対策や相続発生以後の申告に向けての話は少し横においておくが、いろいろな方々の相談を受けてまず思うのは家族関係が複雑になってきているなということである。
少し古いが家父長制度であった頃は、相続財産の件に関しては良くも悪くも長男がとか跡取りがということで比較的揉めることなく決まったのであろうが、現行法の下ではそんなことは許されないし、当然のことながら 法に則った形での結論や導きが基本となる。
相続人も全国あちこちに散らばっているケースも珍しくないし、職業も親の跡を継いでいるなんていう人はほんの一握り、たぶん数パーセントであろう。
そういう意味において多かろうと少なかろうと財産をどう分けるのがいいのかというの親側の悩みも多いような気がするが、こういった時に後々 意外と厄介になるのは親側の意向がコロコロ変わるケースである。
以前は長男に多めにとおっしゃっていた方が、あることがきっかけで長男にだけは財産を相続させたくない と1、2年前におっしゃっていたことと正反対のことを口にされる方に出会ったこともある。
私も親は両方とも亡くなったので今後 親から相続を受けることはないが、財産があるにせよないにせよ、被相続人になることはあるので目の前で起こっている相続案件はいろいろな面において非常に勉強になる。
少しだけ話を戻すが、
先程も親側の態度や気持ちがフラフラして定まっていないことが相続で揉める要因になりかねないと言ったが、60代ではまだまだお金もいるし、自分が生きていくのが精いっぱいなのでなかなかそこまでは決めきれないかもしれない。
ただ、70を過ぎるころからはある程度 道筋を決めておく必要があると思うし、80を過ぎてからでは自分の考えの整理もなかなかつかないこともあるし、相続で一番困る 感情に左右されがちになるというのも80代以降の方が多いように思う。
亡くなってしまえば、本人は何もわからないと言ってしまえばそれまでであるが、やはり子供や孫たちがたまには思い出したり、離れて暮らしていれば毎年とは言わなくとも1、2年に1回くらいは墓参りに来てもらえれば、生きてきてよかったと言えるのであろう。
私の周りにも親子、兄弟で揉めて墓参りや法事にも顔を出さない、あるいは出せない関係となってしまっている方もいらっしゃるが、揉めているのは子供たちだけのせいだけではなく、親が生前にきちんと親子間や兄弟間等の親族関係の整理ができていなかったことがその最大の要因であることは間違いない。
相続の仕事をしていて、財産のことなので全てが平等ということにはなかなかならないが、それぞれの相続人が100%とは言わないまでも、一定のところまでは納得して判を押される相続案件に関わった時には、いいお手伝い、いい仕事ができたと私の方まで亡くなった被相続人に対して「よかったですね」と思わずつぶやいてしまう。
話し話だけに少し熱くなってしまったが、仕事柄 今後いろいろなケースに遭遇するであろうが、いい形での終い方ができるようにするのも私たちの仕事の役割の一つかもしれない。
長寿社会になってきてはいるが、それと同時に亡くなっていく人も非常に多いように思うし、事務所で抱える相続の事案も今まで以上に多くなってきているので、そういった相続の仕事をしながら、その奥深さを以前にも増して感じる機会も増えてきている。
人の死に際が取り上げられるケースはほとんどないが、人間って死に際が一番大事なんだろうな 手を休めながら考えている。
今日は休日であったが、どうしても落ち着いて静かな中で仕事がしたかったので事務所に出向き、亡くなった方から何度も手を握られたことを思い出しながら申告のための資料整理をしていた。
若い人には申し訳ないが、親の立場、子の立場 両方経験していることも役に立っているんでしょうね。
人生 いろいろあるものね。