2019年07月06日

No636:“死刑囚”と“死刑執行人”双方の苦悩

 いきなり背筋がぞっとするようなタイトルでびっくりされた方もいらしゃるかもしれないが、先日来 読んでみようと思っていた2冊の本が読み終わり、胸の中に何とも言えない思いが残っていてとれなかったので、あえて気持ちを整理もせずに今の気持ちをありのまま綴ってみることにする。
 まず、その本とは次の2冊である。
〇「ある若き死刑囚の生涯」(加藤乙彦・・筑摩書房/2019年1月)
〇「死刑執行人の苦悩」(大塚公子・・角川文庫/1993年5月)

 「ある若き死刑囚の生涯」の方は、2月の忙しいさなかに新聞の書籍紹介欄に載っているのが目に留まり即座に購入し、今まで買い置きしていた本である。
 1986年に24歳で横須賀線爆破事件を犯し、27歳の時 最高裁で死刑が確定、そして32歳で死刑が執行された純多摩良樹の事件犯行までの人生と逮捕後、死刑が執行されるまでの5年近くの刑務所での生活ぶりを描いたものである。
 事件の凶悪性が許されるものではないが、ここでは事件の真相や罪の重さにはについてはあえて触れず、この犯人(死刑囚)の心の変化についてとり上げてみた。。
 2冊目の本と合わせて考えてみても、私自身、死刑廃止論に積極的賛成でもないし、この死刑制度が取りざたされる時にいつも出てくる、「被害者の立場や心情を考えると・・」とか、「やったことの責任をとれ」という考えも理解できるが、この2冊を読み終えてみると心の中の軸が初めて死刑廃止論の方へ少しだけ傾いたのが自分自身でも認識できた。しかし、まだ、凶悪犯罪への抑止力という面でも、即座に死刑廃止まで行き着くには難題も多く、この奥の深い論題には私自身まだ入口に差しかかった程度の認識である。
 純多摩死刑囚は収監後、独学で短歌を学び、その後 獄中からの投稿では数多くの賞を受賞している。私の心にグサッときたこの死刑囚の心の変化を表した独房からの叫びともいえる作品を紹介しておく。


・一瞬に人を殺(あや)しめわが罪をおもへばこの身凍る思ひす
・偶(たま)さかの獄の集会席二つ空きてゐてわれの死期を悟れり
・わが希(ねが)ひ歌に託して詠みゆかん処刑さるる日近づきてゐむ
・屋根の上のつがひの鳩にも見られゐん獄にうごめくわれの姿は
・獄の壁に話しかくれば夜の更けを何か心にひびくものあり
・鉄窓に凭(もた)れて夜空を見放くれば小さき星がわれにまたたく
・陽のとどく位置に机をおきかへて死ねばならぬ心さだまる
・伸びすぎたる爪を剪(き)るとき母想う断ちきれぬ記憶のなかに構へて
・文鳥の飼育許され独房に互(かた)みにいのち悲しみ合ふ [独房で文鳥の飼育のみ許されていた]
 この本の中の数多くの短歌のうち2、3例を紹介しようと思っていたが、心打たれたものを書いているうちにこんなに多くなってしまった。

 死刑執行直前に「死にたくないよー」と大声を張り上げたり、暴れたりする死刑囚もいるなかで、この純多摩死刑囚はいたって落ち着き、死刑執行日が本人に告げられ、執行日前日の筆者(加賀氏)への最後の手紙では、このように綴られていた。
「加賀先生に最後のお手紙を、書かなければればならない日がやってまいりました。とうとう私に〈お迎え〉が参りました。数時間後の旅立ちに備え、こうしてお別れの筆を執っている次第です。・・・・・所長さんに、お世話になったお礼を述べ、握手をさせていただきました。・・・・・加賀先生にはくれぐれも、お身体をお大事にされますように。ほんとうにいろいろとありがとうございました。夕食しながら長く談笑してしまい、時間が長くなりました。  それでは、行って参ります」


 後の方の本は、拘置所で死刑を言い渡したり、実際に執行に立ち会った人の話であるが、これもまた苦悩の連続で、いくら仕事とはいえ人間が人間を処することで気がおかしくなった人もいるとのこと。
 死刑執行の時、死刑囚を目隠しする、手を縛る、縄を首にかける というのを3人でわずか数秒で整えなければいけない刑務所の執行官の役目。これは読んでいて人間の心をおかしくするのも当然だとも思えた。
 刑務官は日々死刑囚と接しており、中には更生して、罪を償いたいととか、「私はこれで償えるでしょうか」と訴えてくる受刑者もいたとのこと。中でも3人を殺害したある受刑者は、「殺してしまったのは3人なのに私一人にの命では償いきれない、やりきれない。」と訴えてきた死刑囚もいたようだ。
 あと、印象に残ったのは法務大臣が署名押印した死刑執行命令書に基づき、死刑囚に死刑執行(基本的には当日)を告げるのは刑務所の所長の役目のようだが、ある所長は死刑が確定した後、反省し模範囚に更生した死刑囚には、数時間後に執行される事実をこんな言葉でしか伝えられなかったとその時の苦悩を口にされていた。その言葉とは、『残念だが、お別れだよ。』

 後の方の本は最初は興味本位で読みだした本であったが、受刑者と同じくらい執行者も苦悩に満ちた人生を送っていることに初めて気づかされた重い重い本であった。
 また、やはり被害者側の心情をどう理解し、納得させていくかも今回の2つの本を読んで考えないといけないということもあらためて感じた。
 この2冊を読んで、私が心に刻んだのは、罪を犯すようなことはしない ということはもちろんであるが、命を大切にしないといけなということである。
 生きることの意義を久しぶりに考えさせられた良本であった。
posted by ヒロイ at 20:44| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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