移転されてからは待合室や診療スペースも広くなり、それまで以上の駐車台数も確保され、患者数も従来と比べると大幅に増え、誰もが羨むような状況で3、4年が過ぎていった。
実はここまでがコロナ以前の話で、コロナでこのクリニックは大きなダメージを受け、患者数の減少は他の診療科や他のクリニックと比較すると比べものにならないくらい大きなものであった。
こういった状況はクリニックに限らず他の業種でも多く見受けられたが、コロナが段々下火になってくると、アフターコロナへの対応について作戦をしっかり立てている事業者とそうでない事業者の差が今まで以上に広がってきた感じがする。
コロナというのは、各事業の状況がその前と後が繋がっているというのではなく、コロナを境にしていったん世の中がいったんリセットされたと考えるべきで、新たなステージが始まったと捉える方がいろいろな面において前向きな戦略が練れる。
もちろん全てにおいてではないが、人々の時間やお金の使い方も変化し、いろいろなことに対する考え方も大きく変わった部分が結構見られる。
前述の開業医はこのコロナでいろいろなものがリセットされたことを深く考えず、コロナ前と同じ考え方、同じやり方で、悪く言えばダラダラと何の増患対策もせず、同じ形で診療を続けてこられた。
コロナ前までは移転時に背負った莫大な借金返済のために脇目もふらず、そして新しいものは研究しながら取り入れていくという模範的な形で医院経営を進めていかれたが、コロナでそれまで張りつめていた緊張の糸が完全に切れてからは なかなか元の気持ちには戻らず、まるで「世の中が悪い」というような後ろ向きな気持ちになっていかれた。もちろん会話の内容も人のせいにするようなものが目立つようになってきた。
そういった気持ちの変化はスタッフや患者様にも何らかの形で伝わったかのか スタッフ離れ、患者離れが起こっていった。
これ以上の具体的な内容はここでは触れるわけにはいかないが、いつもやっていたことが何かの事情によりできなくなったり、やらなくなると歯車が狂ってくるという典型的な例である。
毎日決まってやることはそうそう重要なことばかりではないが、やはり 何気なしにやっていることは決してムダなことではなく、それがものごとの前後をつなぐという点においては大きな意味があることを忘れてはいけない。
たとえがいいのかどうかはわからないが、毎日 植木や花に水をやるという行為は、本当にお決まりの何気ない行為であるが、このことをやめてしまうとたちまち枯れてしまいという悲しい結果になる。
私は経営者に対しては結構口うるさい方だと思うし、結果が出ていなければ、「なぜ?」、「どうしたら浮上できる?」、「少し甘いのでは?」と追及したり、何とか浮上のきっかけをいっしょになって探し出そうとするときもある。
ただ、これとてやる気のある経営者の場合だけで、当の本人がそこまでの気がないようであれば、バックアップしていても限界がある。
そういう意味で最初の掲げた経営者にはガツンと言ってやろうかと思っている。「コロナのせいになんかしても何も解決しない、だってすべての人が被ったものなんだから」、「あっという間に競合が増えたなんて言い訳にならない、どこだろうと、いつだろうと いい場所なら競合が生まれるのは当然」、「次へのステップをどこまで考えているのか」、「あなたには家族も従業員もいるんだろ」って。
とはいっても最後は他力でなく、自力で解決するしか道は開かれない。
このドクターまだまだ若いしやり直しも効くので目を覚ましたら? ポルシェを眺めてばかりいないで・・・。