2020年10月18日

No702:相続の仕事から学ぶこと

 税理士という仕事をしていると個人事業主 や企業経営者と接することが多いし、我が事務所の場合、開業医の顧問先が多いので医師(院長)と会う機会も他の人よりも必然的に多くなる。
 タイトルにあるような相続の仕事と言えば、一般的には資産家を相手にした仕事というイメージを抱かれる方が多いと思うが、最近の相続の相談は親から土地や資産を引き継いだ いわゆる一般の方からの相談もかなり増えてきている。
 高額な資産をお持ちであった方が亡くなった場合の相続税の申告のお手伝いをすることもあるが、上に掲げるような方、つまり一般の方々が相談にお越しになることもある。
 ただ一般の方と言っても 資産総額〇億円というような資産家と呼ばれる部類に入る方ではないが、一定以上の資産はお持ちであり、その分け方に関することと、「うちの場合、相続税ってかかるの?」というのがおもな相談である。

 会社経営者や医院の院長ではなく、当事務所の顧問先企業の経理担当者であったり、あるクリニックの開業をいっしょに支援していた薬品会社の方であったり、あるいは 知人からの紹介であったりときっかけはさまざまである。こういった方の多くはサラリーマン、あるいは元サラリーマン(現在は年金生活者)である。
 先週も勤務先を定年退職された方で、実家に一人住まいであったその方のお母様が亡くなられ、その不動産と幾ばくかの預金を兄弟間でどのように分けたらいいのかという相談があった。
 また、一昨日の70歳の方(男性)からの相談は、重い持病のある奥様が実家から引き継いだ財産をどのように子供たちに引き継ぐのがベストか? などという内容であった。
 もちろん税理士という仕事をしているので、相続税が抑えられる節税手法を駆使し、いわゆる相続税対策を練り、実行することが重要なことは分かっているが、その前段階で財産をどのように分けるのかを悩んでいる方が思いのほか多いことに気付かされる。
 これは旧民法下における家督相続や家父長制度の場合には、財産の引き継ぎ先のはほとんど長男や跡取りということで決まっていたが、これからの時代というか、現在の社会において、こういった財産の行き先(引き継ぎ先)はそれぞれの家族や親子関係により、いくつものパターンが考えられる。
 長男は家業を継がずに遠くに住んでいるが嫁に行った(姓が変わった)娘とは同居しているとか、子供たちが決して仲が悪いわけではないが経済的な格差がある場合とか、また 今70代以上の方の場合には比較的少ないが、それより若い層(60代以下?)には離婚した後 再婚され、前妻の間にも現在の奥様の間にもそれぞれ子供がいらしゃる場合等、家族を取り巻く状況はさまざまであり、そういったことが相続の話をまとまりにくくしている要因のひとつにもなっている。
 ここでは申し上げられないが、今までにはなかった家族関係や財産の引き継ぎの方法といった、「えっ?」と思うような相続をいくつも目の当たりにしてきた。

 では、こんな時にどうするのか?
 私は答えを持ち合わせているわけでないが、この長寿時代にいつまで生きて、将来 誰と暮らし、誰の世話にならないといけないのかが以前のようには予測ができない世の中になってきているので、相続での財産の行き先を早くから決め過ぎないことであろう。
 実はある資産家の方は、相続対策で子や孫に数年にわたって多額の生前贈与されていたが、90歳になってもご存命で、今はご自身の財産は心細いくらいのものになってしまっている。
 この方のお子さんたちはよくできた方なので、以前 引き継がれた資金で親の介護や施設の費用を賄っておられるが、もし、子供たちが財産を使い切っていたらご本人の老後はお先真っ暗であったであろう。たとえ、過去において大資産家であった方であっても。

 目の前で起こっている例を綴ったので、話としてはまとまらなくなってしまったが、要は自分自身にどんな老後が待ち受けているのかを考えることが何よりの相続対策になるであろう。
 ただ、不幸にも50代、60代で亡くなられる方もあるので、人生って本当に先の読めない物語のようなものだなと思うこともある。
 こんなことを考えていると私自身もなんだか気が重くなってきたが、この仕事をしていてよかったなと思うことは、一般の人以上にいろいろな事例に出会う機会があるということであろう。
「これしかだめ」なんて 答えが一つに絞られるわけではないので、いろいろな話を聞き、よりよい方法を模索していくことこそ、我々の年代(50歳を超えた人)が取り組むべきテーマであろう。
 まず、現実から逃げない、逆に言えば空想の世界に入って期待しすぎない、これが一番の相続対策であることをみなさまにお伝えして 今日の話はおしまいといます。
posted by ヒロイ at 23:18| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする